半導体の作り方で学ぶ日本株 — 設計から完成まで、各工程の日本企業を全マッピング

この記事でわかること - なぜ半導体が「世界を牛耳る」と言われるほど重要なのか - 半導体にはどんな種類があり、日本のどの企業が関係しているか - 「日本は半導体で負けた」は本当か — 凋落の歴史と現状の事実 - 設計から完成までの全製造工程と、各工程に絡む日本企業(銘柄リンク付き) - 半導体関連の日本株を見るときの着眼点
「生成AIの時代は、半導体を制する者が世界を制する」——よく聞く言葉だ。そして同じくらいよく聞くのが「日本は半導体で負けた」という話。
でも、半導体を"作る工程"まで分解して見ると、その評価はかなり一面的だとわかる。本記事は、半導体という製品を「なぜ必要か」「どう作るか」から学び、各工程に日本のどの企業が絡んでいるかを銘柄リンク付きでマッピングする。半導体がわかれば、日本株の見え方が一段深くなる。
⚠️ 株価・シェア等の数値は執筆時点の情報。市場環境で変動するため、最新値は各自で確認のこと。
1. なぜ半導体が世界を牛耳るのか
半導体は、電子機器の「頭脳(演算)」「記憶」「電力の制御」を担う部品だ。スマホ、PC、自動車、家電、データセンター——現代のあらゆる電子機器は半導体なしに動かない。
そこに生成AIが加わり、需要が一段跳ね上がった。
- AIの学習・推論には、大量の演算チップ(GPUなどのロジック半導体)が要る
- AIが扱う膨大なデータを保持するためにメモリ半導体(HBM・NAND)が要る
- AIデータセンターは大電力を食うため、パワー半導体(電力を効率よく制御する半導体)の需要も急増する
つまり生成AIは、半導体のほぼ全種類の需要を同時に押し上げている。さらに、半導体は経済安全保障の中核でもある。米中対立や台湾有事リスクを背景に、各国が「自国で半導体を作れる体制」を国家戦略として奪い合っている。「半導体を制する者が世界を制する」と言われるのは、この需要と戦略性の二重構造のためだ。
2. 【基礎】半導体にはどんな種類があるか
ひとくちに半導体と言っても、役割で大きく分かれる。ここを押さえると、関連銘柄の性格も見えてくる。
【概念解説】半導体の主な種類 - ロジック半導体:演算・処理を行う「頭脳」。CPU・GPU・SoC など。微細化競争の最前線 - メモリ半導体:データを記憶する。DRAM(高速な一時記憶)と NAND(電源を切っても消えない長期保存) - パワー半導体:電力の変換・制御を担う。EV やデータセンターで需要急増 - アナログ半導体/センサー:光・音・温度など連続量を電気信号に変換する - イメージセンサー:光をデジタル画像に変換。スマホカメラの心臓部
種類ごとの代表的な日本企業(くわしくは銘柄ページへ):
- ロジック(マイコン等):ルネサスエレクトロニクス(6723)、ソシオネクスト(6526)
- メモリ(NAND):キオクシアホールディングス(285A)
- パワー半導体:ローム(6963)、富士電機(6504)、三菱電機(6503)
- イメージセンサー:ソニーグループ(6758)(世界シェア首位)
日本は「最終チップ」のうち、パワー半導体とイメージセンサーでは今も世界級だ。一方、最先端ロジックと DRAM では後述のとおり後退した。
3. 日本半導体・凋落の歴史 — なぜ「負けた」と言われるのか
「日本は半導体大国だった」——これは事実だ。1980年代、日本は半導体の世界シェア約50%を握り、特に DRAM(当時の主力メモリ)で NEC・東芝・日立といった日本勢が世界を席巻していた。
ではなぜ転落したのか。要因は複合的だ。
- 1986年の日米半導体協定 — 日本市場の開放と価格監視を求められ、足かせになった
- 韓国・台湾の台頭 — サムスン(韓国)が巨額・高速の設備投資で DRAM を奪い、TSMC(台湾)が「製造専業(ファウンドリ)」という新モデルを確立した
- ビジネスモデルの敗北 — 日本の「自前で設計も製造も全部やる」垂直統合モデルが、設計専業(ファブレス)+製造専業(ファウンドリ)の水平分業にスピードとコストで負けた
- メモリからの撤退 — 2012年に DRAM 大手エルピーダメモリが経営破綻。日本は DRAM から事実上撤退した(NAND は東芝メモリ=現キオクシアが継承)
こうして日本は、最先端ロジックの製造と DRAM という"花形"の座を失った。「日本は半導体で負けた」という評価は、ここだけを見れば正しい。
4. 【事実の再評価】日本は本当に落ちこぼれたのか
ここが、この記事で一番伝えたい論点だ。結論から言うと、「半分は正しいが、半分は誤解」である。
「負けた」のは、ロジックやメモリといった最終製品(チップそのもの)の話。だが半導体は、作るのに膨大な材料と製造装置が要る。そしてその"川上"で、日本は今も世界トップ級なのだ。
【概念解説】川上と川下 - 川下 = 最終チップ(ロジック・メモリ)。日本は後退 - 川上 = チップを作るための材料・製造装置。日本が世界の要を握っている
日本の川上の強さは数字で見ると明確だ。
- 半導体材料:トータルで世界シェア50%超。なかでもフォトレジスト(回路を焼き付ける感光材)は日本勢が約90%
- シリコンウェハ:日本2社(信越化学・SUMCO)で世界シェア50%超
- 製造装置:前工程のコータ/デベロッパで約92%、熱処理炉で約93%、後工程のダイシング装置で約70%(ディスコ)
つまり——TSMC やサムスンですら、日本の材料と装置なしには最先端チップを作れない。日本は「最終製品の表舞台」からは退いたが、「全メーカーが依存する川上のインフラ」を握る"隠れた要"になっている。
投資の観点でも、ここは重要だ。「負けた領域(最先端ロジック)」に賭けるのではなく、「日本が勝っている川上(材料・装置)」に注目するのが筋の通った見方になる。
画像: Pexels
5. 半導体ができるまで — 設計から完成までの全工程マップ
半導体は、ざっくり 設計 → 前工程 → 後工程 の3段階で作られる。
設計
回路を設計する段階。どんな機能のチップにするかを論理設計し、レイアウトに落とす。
前工程(ウェハに回路を作り込む)
円盤状のシリコンウェハの表面に、微細な回路を立体的に作り込む。クリーンルームで、数百もの工程を繰り返す。
- ウェハ製造 — シリコンの単結晶を育て、薄くスライスし、鏡面に研磨する
- 成膜 — ウェハ表面に絶縁膜・金属膜などの薄い膜を積む
- リソグラフィ(露光) — 回路パターンを光で転写する。微細化の主戦場
- エッチング — 不要な部分を削り取り、パターンを刻む
- 不純物注入(ドーピング) — 微量の不純物を打ち込み、電気的性質を与える
- 平坦化(CMP) — 積み重なった表面を磨いて平らにする
- 洗浄 — 各工程の合間に、微細なゴミを徹底的に除去する
→ 2〜7を何十回も繰り返し、回路を何層も積み上げていく。
後工程(チップを製品に仕上げる)
- ダイシング — 完成したウェハを、チップ1個ずつに切り分ける
- ボンディング/パッケージング — チップを基板に固定し、配線でつなぐ
- モールド(封止) — 樹脂で包み、チップを保護する
- テスト — 検査装置で、正常に動くかを確認する
近年は、複数のチップを高密度に組み合わせる「先端パッケージング」(チップレット等)が、性能を左右する重要工程として注目されている。後工程は、かつての"仕上げ"から"競争力の源泉"へと位置づけが変わってきた。
6. 工程別・日本企業マッピング — どの工程に、どの日本企業が絡むか
ここが本記事の核だ。各工程に、日本のどの企業が関わっているかを銘柄リンク付きで整理する。気になった企業は、業績・スコアをかぶHUNTの銘柄ページで確認してほしい。
設計
日本が最も手薄な領域。車載などのマイコン設計で ルネサスエレクトロニクス(6723)、システム LSI 設計で ソシオネクスト(6526) が存在する。
ウェハ製造(シリコンウェハ)
信越化学工業(4063) と SUMCO(3436) の日本2社で世界シェア5割超。すべての半導体の"土台"を供給する、日本が圧倒的に強い領域。
材料(フォトレジスト・成膜材料など)
回路を焼き付けるフォトレジストは 東京応化工業(4186) が世界級(同分野ではかつての JSR も大手だが、現在は投資ファンド傘下で非上場)。成膜材料・後工程材料では レゾナック・ホールディングス(4004)、住友化学(4005) なども関わる。
前工程の製造装置
- 総合大手:東京エレクトロン(8035) — 成膜・エッチング・コータ/デベロッパなど前工程装置の世界的リーダー
- 洗浄装置:SCREENホールディングス(7735)
- 平坦化(CMP)装置:荏原(6361)
- 露光装置:ニコン(7731)、キヤノン(7751)。ただし最先端の EUV 露光はオランダ ASML がほぼ独占。日本勢は成熟世代やナノインプリント等で勝負
後工程の製造装置・検査
- ダイシング(切り分け):ディスコ(6146) — 世界シェア約7割
- モールド(封止)装置:TOWA(6315)
- テスター(検査装置):アドバンテスト(6857) — 半導体テスターの世界トップ級
デバイスメーカー(最終チップ)
キオクシア(285A)(NAND)、ローム(6963)・富士電機(6504)・三菱電機(6503)(パワー半導体)、ソニーグループ(6758)(イメージセンサー)、ルネサス(6723)(車載マイコン)。
こうして並べると一目瞭然だ。日本企業は「最終チップ」より、その手前の"工程"のあちこちに濃く分布している。半導体株を見るとき、この地図が頭にあると銘柄の位置づけを誤らない。
7. 日本の反攻 — Rapidus と TSMC熊本
日本は、失った"製造の最前線"を取り戻そうとしている。政府の戦略は二本柱だ。
Rapidus(ラピダス)
北海道・千歳に拠点を置く新会社。米IBMの技術を導入し、2nm世代の最先端ロジック半導体の国産化を目指す。2027年初頭の量産開始を掲げ、さらに先の1.4nm世代も視野に入れる。実現すれば、日本が約20年ぶりに最先端ロジックの製造に返り咲くことになる。
TSMC熊本(JASM)
世界最大のファウンドリ TSMC が熊本に建てた工場。第1工場は稼働済みで、第2工場では3nm世代の生産が検討されており、投資額は2兆円を超える公算とされる。日本国内に最先端の製造拠点が増えることは、周辺の材料・装置メーカーにとっても追い風になる。
これらが計画どおり進めば、「日本=川上だけ」の構図に、「製造の最前線」が加わる可能性がある。
8. 投資家としての着眼点 — 半導体の日本株をどう見るか
半導体関連の日本株は、工程上の位置で性格がはっきり違う。ここを混同しないことが大事だ。
- 材料・装置(川上) — 高シェア・寡占・参入障壁が高い。比較的安定だが、半導体メーカーの設備投資サイクルに業績が連動する
- デバイス(最終チップ) — メモリやパワー半導体は、好不況の波(シリコンサイクル)が大きい。当たれば大きいが振れ幅も大きい
【概念解説】シリコンサイクル 半導体の需要と価格が、好況と不況を周期的に繰り返す現象。特にメモリで顕著。業績の"山と谷"を生む。
生成AIによる需要拡大は構造的な追い風だが、AI設備投資が踊り場を迎えるリスクは常にある。「AIだから上がる」と一括りにせず、
- その企業は工程マップのどこにいるか(川上の安定型か、デバイスの市況型か)
- 世界シェアと参入障壁はどうか
- 設備投資サイクルの今は山か谷か
を分けて見たい。個別銘柄の業績・スコアはかぶHUNTの銘柄ページで確認できる。
まとめ
- 生成AIで半導体は全種類が同時に需要拡大。経済安全保障の中核でもある
- 「日本は半導体で負けた」は最終チップ(ロジック・メモリ)の話で、半分は正しい
- だが日本は材料(シェア50%超、フォトレジスト約90%)と製造装置という"川上"を握る隠れた要
- 製造工程(設計→前工程→後工程)の各所に、日本企業が濃く分布している
- Rapidus・TSMC熊本で「製造の最前線」を取り戻す動きも進行中
- 投資では「川上の安定型」と「デバイスの市況型」を分けて見るのが鉄則
半導体は「日本が負けた産業」ではなく、「負けた場所と勝っている場所がはっきり分かれた産業」だ。その地図を持てば、関連銘柄の解像度は確実に上がる。
よくある質問(FAQ)
Q1. なぜ半導体はそんなに重要なのですか? A. 半導体は電子機器の「演算・記憶・電力制御」を担う中核部品で、スマホ・PC・自動車・データセンターなど現代のあらゆる機器に不可欠だからです。さらに生成AIがロジック・メモリ・パワー半導体の需要を同時に押し上げ、経済安全保障の戦略物資にもなっています。
Q2. 「日本は半導体で負けた」というのは本当ですか? A. 半分は本当で、半分は誤解です。最先端ロジックや DRAM といった「最終チップ」では後退しました。しかし、半導体を作るための材料(世界シェア50%超、フォトレジストは約90%)と製造装置(前工程・後工程の多くで高シェア)では、日本は今も世界トップ級です。「川下で負け、川上で勝っている」状態です。
Q3. 半導体にはどんな種類がありますか? A. 主に、演算を担うロジック半導体、データを記憶するメモリ半導体(DRAM・NAND)、電力を制御するパワー半導体、連続量を扱うアナログ半導体、光を画像に変えるイメージセンサーがあります。日本はパワー半導体とイメージセンサーで今も世界級です。
Q4. 半導体はどんな工程で作られるのですか? A. 大きく「設計 → 前工程 → 後工程」の3段階です。前工程はウェハに回路を作り込む工程(成膜・露光・エッチング・ドーピング・平坦化・洗浄を数十回繰り返す)、後工程はチップに切り分けてパッケージ化・検査する工程です。
Q5. 半導体関連の日本株を見るとき、何に注意すべきですか? A. その企業が工程マップのどこにいるかを見極めることです。材料・装置(川上)は高シェアで比較的安定ですが半導体メーカーの設備投資サイクルに連動します。デバイス(最終チップ)はシリコンサイクルの波が大きくなります。「AI関連」と一括りにせず、安定型か市況型かを分けて評価しましょう。
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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定銘柄の購入を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容は執筆時点の情報に基づいており、将来の運用成果を保証するものではありません。
最終更新: 2026-05-22 執筆: かぶHUNT編集部